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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)2633号 判決

原告

株式会社ゼニヤ

右代表者代表取締役

玉野昭次

原告

玉野昭次

原告

玉野ヒサ

右原告ら訴訟代理人弁護士

澤田和也

被告

破産者日産ハウス株式会社破産管財人

仁藤一

右代理人常置代理人

野田英二

右訴訟代理人弁護士

紺谷宗一

被告

日産設計監理株式会社

右代表者代表取締役

堂野信明

被告

堂野信明

右被告二名訴訟代理人弁護士

井野口有市

右訴訟復代理人弁護士

高瀬忠春

主文

原告株式会社ゼニヤが破産者日産ハウス株式会社に対し損害賠償金三〇六二万五五二〇円及び同遅延損害金四八五万三〇九六円の、原告玉野昭次が破産者日産ハウス株式会社に対し損害賠償元金二三五五万九四九九円及び同遅延損害金三一一万一一四四円の、原告玉野ヒサが破産者日産ハウス株式会社に対し損害賠償元金二三四五万二八四八円及び同遅延損害金三〇九万七〇六一円の各破産債権を有することを確定する。

被告日産設計監理株式会社、同堂野信明は、各自原告株式会社ゼニヤに対し、金二一五六万八九六五円、原告玉野昭次に対し、金一三二一万九四五一円、原告玉野ヒサに対し、金一二八六万〇七七四円及び右各金員に対する昭和五八年四月二八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らに生じた費用の二分の一と被告破産者日産ハウス株式会社破産管財人仁藤一に生じた費用を同被告の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告日産設計監理株式会社、同堂野信明に生じた費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告日産設計監理株式会社、同堂野信明の負担とする。

この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

(一)  原告株式会社ゼニヤが破産者日産ハウス株式会社(以下「破産会社」という。)に対し損害賠償元金三〇九五万七五二〇円及び同遅延損害金四九〇万五七〇六円の、原告玉野昭次が破産会社に対し損害賠償元金二五二四万〇三八八円及び同遅延損害金三三三万三一一四円の、原告玉野ヒサが破産会社に対し損害賠償元金二三九三万一六八四円及び同遅延損害金三一六万〇二九三円の各破産債権を有することを確定する。

(二)  被告日産設計監理株式会社(以下「被告日産設計」という。)、同堂野信明は、各自原告ゼニヤに対し、三〇九五万七五二〇円、原告昭次に対し、二五二四万〇三八八円、原告ヒサに対し、二三九三万一六八四円及び右各金員に対する昭和五八年四月二八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

(四)  被告日産設計、同堂野につき仮執行の宣言。

2  被告ら

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

二  原告らの請求原因

1  原告ゼニヤは、パン、ケーキ類の製造、販売を業とする会社であるが、昭和四九年一二月一八日破産会社との間で別紙物件目録(一)記載の建物(以下「A建物」という。)の設計、施工につき請負代金二二九六万一八〇〇円で建築工事請負契約を締結し、昭和五〇年六月ごろ右工事を完了した破産会社からA建物の引渡を受け、所有権保存登記を経由した。

原告昭次、同ヒサは昭和五〇年六月ごろ破産会社との間で別紙物件目録(二)(イ)記載の一棟の建物(以下「B建物」という。)の設計、施工につき請負代金二七六五万六四〇〇円で建築工事請負契約を締結し、同年一二月一五日ごろ右工事を完了した破産会社からB建物の引渡を受け、同目録(二)(ロ)(1)、(2)記載の各専有部分につき原告ヒサの、同目録(二)(ロ)(3)、(4)記載の各専有部分につき原告昭次の所有権保存登記を各経由した。

原告昭次は、原告ゼニヤの代表取締役であるところから、A、B各建物は建築構造上は別個の独立した建物であるが、B建物の西側部分がA建物の東側部分と接して建てられているため、外形上は一棟の建物のように接続した内外装がなされている。

2  A、B各建物には次のとおり建築工事の設計、施工及び工事監理上の瑕疵(以下「本件瑕疵」という。)が存在する。

(一)  構造上の欠陥

(1) 鉄骨軸組架構体の歪み

B建物の鉄骨柱が設計図書上あるべき直角交差線上に取付け、施工されておらず、鉄骨柱と鉄骨梁との軸組架構体に平面上の歪みが生じ、本来直角に組まれる軸組結合の接合強度(耐力)が低下している。

(2) 鉄骨構造体の部材熔接の不良

A、B、各建物の鉄骨柱と鉄骨梁との接合は熔接によるが、いわゆるラーメン構造として剛接合をすべき箇所で必要な突合せ熔接がなされておらず、構造耐力上必要な接合強度を充たしていない。

(3) 基礎構造の不良と不等沈下

A、B各建物の基礎構造は、その敷地の地耐力が地中一四メートルまでは一平方メートル当り〇ないし一トンにすぎない軟弱地盤であるのに、地耐力が一平方メートル当り五トンあることを前提とする誤つた設計図書に従い施工されたいわゆるベタ基礎であるため、右各建物はその荷重を支持しうる地盤上に立脚せず、不等沈下している。即ち、A、B各建物は水平面において、A建物につき八七ミリメートル、B建物につき六七ミリメートル、各建物が外形上一棟の建物のように接続した内外装がなされているところから総合的にみて一一九ミリメートル各々傾斜し、また垂直面においては、各建物ともに北側に傾斜しているが、特にB建物北東端部の外壁屋上部分はあるべき垂直線(建物外壁垂直面)から一五四ミリメートルも北隣りの長田ハイツ側に傾斜し、B建物の屋上塔屋外壁沿いに設置された風呂場の煙突は同ハイツ屋上周辺の手摺り壁上に乗りかかつており、B建物の屋上北側部分は、同ハイツ敷地との境界線から七四・九ミリメートルも越境して、同ハイツによつて支えられている状況である。

なお、右不等沈下は年々進行し、B建物北東端部分と北側長田ハイツとの間隔は昭和五二年一二月八日には二三五ミリメートルであつたのに対し、昭和五七年一二月上旬には一八六ミリメートルであつて、B建物の傾斜は五か年間に四九ミリメートルの割合で進行している。

(二)  耐火、防火上の欠陥

(1) 耐火性能の不足

A、B各建物の敷地は建築基準法上の用途地域としては近隣商業地域に、同法上の防火地域としては準防火地域に指定され、右各建物が四階建であるところから耐火建築物でなければならないところ、右各建物建築工事の確認申請書に添付された被告堂野作成の耐火リストによれば、両建物とも天井裏の柱、梁につき所定の耐火被覆(一時間耐火)が取付けられることになつていたが、その施工は全くなされておらず、また室内の柱の鉄鋼モルタル塗の厚さも右耐火リストでは四センチメートルとなつているのに実際には二・二ないし二・七センチメートルの厚さにしか施工されていない。

(2) 防火区画の欠落

A、B各建物は建築基準法上その主要構造部を耐火構造にしなければならず、三階以上の階に居室を有する建築物であるところから、同法施行令上その階段部分と住居その他の部分とを耐火構造の床、壁、防火戸で防火区画することになつている。しかるに、実際はA建物については、階段に木造部分があり防火戸の設置がなく、B建物については防火戸の設置はなくすべて木製の戸が施工され、いずれも右法令所定の防火区画が欠落している。

(3) 非常照明の欠落

A、B各建物は建築基準法上の共同住宅の用途に供する特殊建築物であり、同法施行令所定の構造を有する非常照明を廊下、階段等に設置すべきであるところ、本件建築工事ではその施工が全くなされておらず、通常の蛍光灯(二〇ワット)が設置されているにすぎない。

(三)  ところで、民法六三四条所定の「仕事の目的物の瑕疵」とは「物が契約に適合していないこと」を意味すると解されるところ、建物の建築請負契約において当該建物が、相当な構造耐力上の安全性を具有すること、あるいは、相当な耐火、防火上の安全性を具有することは契約上当然に予定された本質的性能要件である。そして、右安全性の具体的技術水準は建築基準法令所定の基準によるべきであり、右基準は私法上の当事者間においても特約なき限り合意の最低限を画すると解すべきであるが、A、B各建物には前記のとおりの欠陥が存し、右安全性につき技術水準を充たしていないから、建築工事の設計、施工及び工事監理上の瑕疵がある。

3  破産会社、被告堂野及び同日産設計の責任

(一)  破産会社

破産会社は、A、B各建物の設計、施工に際し、本質的性能要件である構造耐力上及び耐火、防火上の安全性を欠いてはならない本件請負契約上の注意義務を負うところ、本件瑕疵が建築関係者なら周知の地耐力調査と基礎構造の関係や耐火、防火上の基本に係る重点管理事項に関して存し、しかも原告らのような建築工事の素人にとつて通常関心もなく、建物完成後は内外装に隠ぺいされ容易に発見されにくい箇所に存することからすれば、破産会社はいわば手抜きをすることにより右瑕疵を生じさせたもので、本件請負契約の履行につき不完全履行があるから、民法四一五条に基づき原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

仮にそうでないとしても、本件請負契約に基づくA、B各建物の設計、施工及び工事監理に関し本件瑕疵が存在するから、破産会社は原告らに対し、民法六三四条に基づき瑕疵の修補に代わる損害及びその瑕疵により生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告堂野及び同日産設計

被告堂野は、被告日産設計の代表取締役兼管理建築士で被告が破産会社から下請負契約をしたA、B各建物の設計及び工事監理の担当者であるが、建築士法所定の注意義務を怠り、右各建物の基礎構造につき地質調査をして相当な設計をせず又は破産会社が施工に着手した際改めて右調査を行いこれに基づき相当な設計変更をせず、かつ相当な工事監理をして破産会社に設計図書どおり相当な耐火、防火上の施工をさせなかつたことにより、本件瑕疵を生じさせた。従つて、被告堂野は少くとも過失により原告らの財産権又は安全に生活し、あるいは業務活動を行う権利を侵害したから、不法行為者として民法七〇九条に基づき原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

被告日産設計は、建築設計、工事監理等を業とする会社であるが、被告堂野は右代表取締役であると同時に管理建築士として被告日産設計に雇用され、建築士法所定の設計及び工事監理等の業務の管理に従事していたところ、原告らに対し右のとおり不法行為をなした。従つて、被告日産設計は、法人として民法四四条に基づき、あるいは使用者として民法七一五条に基づき、原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

4  原告らの損害

(一)  原告ゼニヤ 三〇九五万七五二〇円

(1) 補修費用相当損害金 二五〇〇万円

A建物には前記のとおり鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵があり、これを除去するためには建物の内外装を一旦取払い鉄骨構造体を解体して再熔接するほかなく、これに基礎構造及び耐火、防火構造の瑕疵の補修をも併せ考えると、結局その補修内容は建物を一旦解体し必要な新材料を補充の上再築せざるを得ない。

その費用は、建物解体費、廃棄材処分費二五四万四四〇〇円、再築費三〇四二万一四四八円、設計図書作成費、工事監理費二二四万八八九五円以上合計三五二一万四七四三円であるが、このうち本件請負代金には含まれず右再築費には含まれる基礎杭打設方法による基礎工費と右代金に含まれ原告ゼニヤが既に支払つた現状施工のベタ基礎打設工費との差額一七三万二六八五円を損益相殺した三三四八万二〇五八円がA建物の補修費用相当損害金となるところ、本訴では内金二五〇〇万円を請求する。

(2) A建築補修工事期間中の代替建物賃料 八四万三五二〇円

原告ゼニヤはA建物の補修工事の期間中代替建物において営業せざるを得ないが、その相当工期として八か月間を要するところ、代替建物の賃料は、原告昭次がかねてA建物に隣接するB建物の階上居室部分を他に賃貸していた時の賃料と同等として算出すると、一か月一七万六六四七円(円未満切捨)合計一四一万三一七六円となるが、本訴では内金八四万三五二〇円を請求する。

(3) 引越費用 三〇万円

原告ゼニヤはA建物補修工事の前後二回にわたり代替建物との間で引越をせねばならないが、その費用は一回当り一五万円合計三〇万円となる。

(4) 鑑定調査費用 一〇〇万円

建築工事に素人の原告ゼニヤが本件瑕疵を技術的に正確に把握し、被告らに対し相当な請求をするためには、専門家による鑑定調査を要するところ、その費用は鑑定人報酬を含め一〇〇万円となる。

(5) 慰謝料 一〇〇万円

原告ゼニヤの代表者は本訴請求に至るまで破産会社による本件瑕疵の原因の隠匿と不完全な補修により多大の精神的労苦を受け、また補修交渉に要した交通費、電話代等具体的に特定しえない雑損や補修工事期間中の営業損失もあるところ、右財産的損害も精神的損害に還元せざるを得ず、これらにより原告ゼニヤが被つた精神的苦痛の慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(6) 弁護士費用 二八一万四〇〇〇円

原告ゼニヤは被告らが本件瑕疵を争うため、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したところ、弁護士費用としては右損害賠償金合計二八一四万三五二〇円の一割に相当する二八一万四〇〇〇円が相当である。

(二)  原告昭次(二五二四万〇三八八円)、原告ヒサ(二三九三万一六八四円)

(1) 補修費用相当損害金(原告昭次分一九五七万四七一六円、原告ヒサ分二〇〇五万一六三九円)

B建物には、鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵、基礎構造及び耐火、防火上の瑕疵等A建物と共通の瑕疵があるほか、鉄骨軸組架構体の歪みがあり、これらを除去するためにはA建物の場合と同様、建物を一旦解体し必要な新材料を補充の上再築せざるを得ない。

その費用は、建物解体費、廃棄材処分費三一一万二六〇〇円、再築費三五八八万二二七三円、設計図書作成費、工事監理費二七五万一一〇四円以上合計四一七四万五九七七円であるが、A建物と同様、このうち基礎杭打設方法による基礎工費と現状施工のベタ基礎打設工費との差額二一一万九六一八円を損益相殺した三九六二万六三五九円がB建物の補修費用相当損害金となるところ、原告昭次、同ヒサはB建物を区分所有しているので、右原告らの専有部分の床面積で右を按分すると、原告昭次が一九五七万四七一六円、原告ヒサ分が二〇〇五万一六三九円(いずれも円未満切捨)となる。

(2) B建物補修工事期間中の代替建物賃料(原告昭次分七二万九四七二円、原告ヒサ分七四万七二四五円)

原告昭次、同ヒサはB建物の補修工事の期間中は同建物に居住できず近辺で相当な建物を賃借せざるを得ないが、その相当工期として八か月間を要するところ、代替建物の賃料は、原告昭次がかねてB建物、階上居室部分を他に賃貸していた時の賃料と同等として算出すると合計一四七万六七一七円となり、前同様右原告らのB建物専有部分の床面積でこれを按分すると、原告昭次分が七二万九四七二円、原告ヒサ分が七四万七二四五円(いずれも円未満切捨)となる。

(3) 引越費用(原告昭次分一四万八二〇〇円、原告ヒサ分一五万一八〇〇円)

原告昭次、同ヒサはB建物補修工事の前後二回にわたり代替建物との間で引越をせねばならないが、右原告らは夫婦であるから引越費用は一括して算出すべきところ、その費用は一回当り一五万円合計三〇万円となり、前同様右原告らのB建物専有部分の床面積でこれを按分すると、原告昭次分が一四万八二〇〇円、原告ヒサ分が一五万一八〇〇円となる。

(4) 鑑定調査費用(原告昭次分四九万四〇〇〇円、原告ヒサ分五〇万六〇〇〇円)

建築工事に素人の原告昭次、同ヒサが本件瑕疵を技術的に正確に把握し、被告らに対し相当な請求をするためには、専門家による鑑定調査を要するところ、その費用は鑑定人報酬を含め一〇〇万円となり、前同様右原告らのB建物専有部分の床面積でこれを按分すると、原告昭次分が四九万四〇〇〇円、原告ヒサ分が五〇万六〇〇〇円となる。

(5) 慰謝料(原告昭次分二〇〇万円、原告ヒサ分三〇万円)

原告昭次、同ヒサともに念願の建物を新築したものの本件瑕疵に悩まされ、特にB建物が傾斜し北隣の長田ハイツにもたれかかつていることに対する近隣への遠慮、気兼ははかり知れず、再三の補修交渉にも拘らず完全な補修をしない破産会社から受けた精神的労苦も甚だしい。また右原告らには補修交渉に支出した具体的に特定しえない雑損があり、さらに原告昭次においては、昭和五一年三月からB建物の三階部分(その一部は自由)及び四階部分を他に賃貸していたところ、本件補修工事に備えて昭和五三年一二月からこれを空屋とし他に賃貸するに至つていないことによる損害もあり、右雑損をも精神的損害に還元すると、これらにより右原告らが被つた精神的苦痛の慰謝料は原告昭次が二〇〇万円、原告ヒサが三〇万円とするのが相当である。

(6) 弁護士費用(原告昭次分二二九万四〇〇〇円、原告ヒサ分二一七万五〇〇〇円)

原告昭次、同ヒサは被告らが本件瑕疵を争うため、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したところ、弁護士費用としては、原告昭次につき右損害賠償金合計二二九四万六三八八円の一割に相当する二二九万四〇〇〇円が、同ヒサにつき同じく二一七五万六六八四円の一割に相当する二一七万五〇〇〇円が相当である。

5  破産会社に対しては、神戸地方裁判所尼崎支部昭和六〇年(フ)第一二三号破産申立事件に基づき同年一二月一二日破産宣告がなされ、同日仁藤一が破産管財人に選任された(以下、被告破産会社破産管財人仁藤一を「被告管財人」という。)

6  原告らは破産会社に対し、昭和六一年四月一七日前記損害賠償請求元本債権(原告ゼニヤにつき三〇九五万七五二〇円、原告昭次につき二五二四万〇三八八円、原告ヒサにつき二三九三万一六八四円)及び損害発生の後である昭和五八年四月二三日から破産会社の破産宣告決定の日の前日である昭和六〇年一二月一一日まで、原告ゼニヤについては商事法定利率年六分の割合による、原告昭次、同ヒサについては民法所定の年五分の割合による各遅延損害金債権(原告ゼニヤにつき四九〇万五七〇六円、原告昭次につき三三三万三一一四円、原告ヒサにつき三一六万〇二九三円)をそれぞれ破産債権として届出たところ、被告管財人は同年六月九日の債権特別調査期日において、原告らの右各届出債権全額につき異議を述べた。

7  よつて、原告らは右各届出債権額につき破産債権としての確定を求めるとともに、被告日産設計に対し法人又は使用者としての責任に基づき、同堂野に対し不法行為に基づき、損害賠償請求権として各自、原告ゼニヤに対し三〇九五万七五二〇円、原告昭次に対し二五二四万〇三八八円、原告ヒサに対し二三九三万一六八四円及びこれらに対する損害発生の後である昭和五八年四月二八日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  請求原因に対する被告らの認否及び主張

1  被告らの認否

(一)  請求原因1の事実は請負代金額を除き認める。

(二)  同2の事実については、(一)(1)の事実は知らず、(一)(2)の事実は争い、(一)(3)の事実中A、B各建物が外形上一棟の建物のように接続した内外装がなされていること、右各建物の基礎構造の設計図書において、敷地の地耐力が一平方メートル当り五トンとされていること、その敷地が軟弱地盤であること、A、B各建物が水平面及び垂直面において傾斜し、特にB建物は垂直面において北隣の長田ハイツ側に大きく傾斜していることは認めるが、敷地の地耐力の数値、傾斜の角度は知らず、その余は争い、(二)(1)の事実中A、B各建物の敷地が準防火地域に指定されていることは認めるが、その余は知らず、(二)(2)(3)の事実は知らず、(三)の事実は争う。

(三)  同3の事実中(一)の事実は被告管財人において、(二)の事実は被告堂野、同日産設計においていずれも争う。

(四)  同4の事実は争う。

2  被告管財人の主張

(一)  構造上の瑕疵について

A、B各建物の水平面及び垂直面の傾斜は、昭和五一年六月ごろB建物北隣りの長田ハイツの基礎工事が完了したころに発現したもので、右基礎工事に際し矢板を用いずいわゆる素堀りがなされたことに起因し、破産会社の本件工事の施工の瑕疵に起因するものではない。それは、右傾斜がA建物完成後約一年、B建物完成後でも約七か月も経過した後に発現していること、A、B各建物のうち長田ハイツに隣接するB建物が特に同ハイツ側に大きく傾斜していること、もし右傾斜が敷地の地耐力不足により生じたとすれば、建物は平均して沈下すべきところ、本件では各建物とも長田ハイツ側にのみ傾斜していることから明らかである。

なお、原告らは昭和五六年六月ごろA、B各建物の傾斜を補修する交渉に際し、破産会社に対しその見積額一四六〇万円中一〇〇〇万円に近い額を負担してもよい旨一旦は申出ており、このことは原告らにおいて右傾斜の原因が破産会社側の落度によるものではなく、長田ハイツの基礎工事にかかる素堀りによることを自認していたからに外ならない。

(二)  耐火、防火上の瑕疵について

A、B各建物は設計図書に記載のとおり施工されている。仮にそうでないとしても、それは予算の関係上原告らと破産会社との間で合意の上なされたもので、破産会社の手抜き工事によるものではない。原告らはA、B各建物の完成後、右事実を認めたうえで円満に各建物の引渡を受けたのであつて、後日これを瑕疵として主張することは許されない。

3  被告堂野、同日産設計の主張

(一)  A、B各建物の設計上の瑕疵につき右被告らには責任がない。即ち、被告堂野は昭和四九年一一月末日ごろ破産会社からA建物の見積用図面の作成を依頼された際、基礎構造の設計に必要な地質調査の資料を求めたが、担当者清水からは、まだ見積書作成の段階で調査費用も計上していないので、右調査をしない前提で見積用図面を作成するように要望された。そこで、同被告は予備調査として大阪市建築指導課担当官と協議した結果、A、B各建物の敷地なら地耐力は一平方メートル当り五トンと見積れば審査基準に適合する旨の指導を得たため、これに基づき各建物の基礎構造の設計をなしたうえ大阪市の建築確認を受けたものである。なお、地質調査については、設計図書の作成とは関係なく、破産会社において本工事の施工に着手する前に実施し、基礎構造の適正化を図るということであつた。

(二)  被告堂野、同日産設計は原告らとは固より破産会社との間でも本件各工事につき工事監理契約を締結していないから、右工事の監理責任を負わない。即ち、右被告らが破産会社からA、B各建物につき依頼を受けた事項は、法令等に適合する建築確認申請書を作成し確認を受けることのみであつて、右申請書の工事監理者欄が右被告らの名義となつているのは便宜上名義を貸したからであるにすぎない。また、右被告らが破産会社から得た報酬はA建物分二三万円、B建物分三〇万円にすぎないところ、通常建物の設計、監理料は工事費総額の約七パーセント相当(本件ではA建物分二〇〇万円、B建物分三〇〇万円)であることからすれば、右被告らが破産会社との間でも本件各工事につき監理契約を締結していなかつたことは明らかである。

四  被告らの主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告管財人の主張(一)の事実中、A、B各建物が長田ハイツ側にのみ傾斜していること、特にB建物の傾斜が大きいことは認めるが、その余は争う。同(二)の事実は争う。

2  被告堂野、同日産設計の主張(一)の事実中、A、B各建物の基礎構造の設計図書において敷地の地耐力が一平方メートル当り五トンとされていることは認めるが、その余は争う。同(二)の事実中、建築確認申請書の工事監理者欄が右被告らの名義となつていることは認めるが、その余は争う。

3  仮に長田ハイツの基礎工事が素堀りでなされたとしても、A、B各建物の基礎構造がその荷重を支持しうる地盤に立脚しておれば、素堀りによる地盤の弛みの影響を受けず、本件不等沈下は発生しなかつた。破産会社は本件のように建物密集地帯において建物を新築する場合、その後隣接地に重量建物が新築ないし増改築されることを予想し、これにより既設建物の構造体に支障がないように相当な基礎構造を設計、施工すべき注意義務がある。

本件各建物は北隣りの長田ハイツ側にのみ傾斜しているが、これは本件各建物が完成後その南隣りに相当な基礎杭を打設した黒田マンションが建設され、同マンション側の地盤が締められた影響によるものと推測され、長田ハイツの基礎工事が素堀りでなされたことによるものではない。また、地耐力不足による地盤の圧密沈下は、地盤の軟弱の程度や土質の差により必ずしも敷地全体にわたり均等に生ずるとは限らない。

五  原告らの反論に対する被告らの認否

いずれも争う。

六  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は請負代金額を除き当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、請負代金額は、A建物につき二二九六万一八〇〇円、B建物につき二七六五万六四〇〇円であることが認められ、これに反する証拠はない。

二そこで、以下本件瑕疵について判断する。

1  構造上の欠陥について

(一)  鉄骨軸組架構体の歪み

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、B建物の鉄骨柱の配列が設計図書(基礎伏図)上あるべき直角交差線上に取付け、施工されておらず、別紙図面一の(一)(二)に記載のとおり、X0軸とY0ないしY4軸との交点上に位置する鉄骨柱とこれに対応すべきX0軸とY0ないしY4軸との交点上に位置する鉄骨柱との間には一階で一八〇ないし二〇〇ミリメートル、四階で一〇〇ないし一二五ミリメートルのずれを生じていること、その原因は、鉄骨柱脚を基礎に固定するアンカーボルトの取付位置が設計図書と食違つていたにも拘らず、鉄骨柱の建方時点でその是正を怠り鉄骨柱、梁の組立を強行したためであること、その結果、鉄骨柱と鉄骨梁との軸組架構体に平面上の歪みを生じ、鉄骨柱柱梁の接合部分において構造力学上支障を生じていること、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、B建物の鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分はその存在応力を十分に伝達しうる構造になつていないことが推認でき、従つて、建物の構造耐力に関する具体的な技術基準(建築基準法((以下「法」という。))二〇条一項、三六条、同法施行令((以下「施行令」という。))三六条、六七条二項)に適合しないと解されるから、B建物の鉄骨軸組架構体の組方には施工及び工事監理上の瑕疵があるというべきである。

(二)  鉄骨構造体の部材熔接の不良

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、A、B各建物における別紙図面二の(一)ないし(四)記載のX0ないしX1軸とY0ないしY4軸との交点上に存する鉄骨柱とX0軸、X1軸間に掛かる鉄骨梁との接合部分は構造耐力上主要な接合部分であつて、その構造は法二〇条一項、三六条、施行令三六条、六七条二項により構造耐力上その部分の存在応力を伝達しうるものでなければならないこと、そのためには右接合部分につき剛接合、即ち、日本建築学会の鋼構造設計規準所定の完全溶込熔接(突合せ熔接)を行う必要があること、ところで、右完全溶込熔接を行うためには、別紙図面三の(一)ないし(三)の各(2)(規準準拠図)に記載のとおり、①開先を取ること(接合部分を約四五度斜めに削つて熔接棒が奥の方まで入り易いようにすること)、②エンドタブ(熔肉を盛るための添板)をつけること、③スカーラップ(梁フランジの全断面を柱フランジに熔接するため梁ウエブ角に四分の一円程度開ける欠込み)を設けること、以上の三点が不可欠であること、しかるに、A建物につき別紙図面二の(三)記載のX0軸とY3軸との交点、B建物につき同図面二の(四)記載のX0軸とY2軸、X0軸とY4軸、X1軸とY4軸との各交点における鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を調査した結果、一部スカーラップの存在が認められたものの、別紙図面三の(一)ないし(三)の各(1)に記載のとおり開先及びエンドタブの痕跡は認められなかつたこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、A、B各建物は構造耐力上主要な接合部分において必要とされる剛接合たる完全溶込熔接がなされておらず、その存在応力を十分に伝達しうる構造になつていないことが推認でき、従つて、建物の構造耐力に関する具体的な技術基準(法二〇条一項、三六条、施行令三六条、六七条二項)に適合しないと解されるから、A、B各建物の鉄骨構造体の部材熔接には施工及び工事監理上の瑕疵があるというべきである。

(三)  基礎構造の不良と不等沈下

A、B各建物が外形上一棟の建物のように接続した内外装がなされていること、右各建物の基礎構造の設計図書において、敷地の地耐力が一平方メートル五トンとされていること、その敷地が軟弱地盤であること、右各建物が水平面及び垂直面において傾斜し、特にB建物が垂直面において北隣の長田ハイツ側に大きく傾斜していることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈証拠〉並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) A、B各建物は水平面において傾斜しており、その最大値は別紙図面四の(一)(二)に記載のとおり、各建物の南西角を各基点(〇ミリメートル)とし水準器で測定すると、A建物につき一階北東角においてマイナス八七ミリメートル、屋上北東角においてマイナス八三ミリメートルであり、B建物につき一階北東角においてマイナス六七ミリメートル、屋上北東角においてマイナス七一ミリメートルであつた。そして、A、B各建物は構造上は別個の独立した建物であるが、同図面二の(一)ないし(四)に記載のとおり、B建物の西側部分がA建物の東側部分と接して建てられているため、外形上は一棟の建物のように接続した内外装がなされているところから、A建物の南西角をA、B各建物の共通の基点として水平面の傾斜の最大値を総合すると、B建物一階北東角においてマイナス一一九ミリメートル、同建物屋上北東角において同じく一一四ミリメートルとなる(昭和五八年三月八日現在)。なお、右のとおり、一階部分と屋上部分とでは傾斜の計測値に殆ど差異はない。

また、A、B各建物は垂直面においてもあるべき垂直線(建物外壁垂直線)から北隣りの長田ハイツ側に傾斜しており、その最大値は別紙図面五の(一)ないし(三)に記載のとおり、各建物の屋階梁天端から柱ベースプレート下端までの長さを一二・五メートル換算して測定すると、A建物北西角の外壁屋上部につき七七ミリメートル、B建物北東角の外壁屋上部につき一五四・九ミリメートルであつた(昭和五八年三月八日現在)。その結果、B建物の屋上塔屋外壁沿いに設置された風呂場の煙突は、右塔屋外壁と長田ハイツ屋上南側の手摺り壁との間にはさみ込まれて損傷し、B建物の屋上北側部分は、同ハイツ敷地との境界線を七四・九ミリメートル越境している。

なお、右傾斜は年々進行し、B建物北東端部分と北隣りの長田ハイツ南東端部分との間隔は、昭和五二年一二月八日には二三五ミリメートルであつたのに対し、昭和五七年一二月上旬ころには一八六ミリメートルとなつており、また、B建物北東角の外壁屋上部があるべき垂直線(建物外壁垂直線)から北隣りの長田ハイツ側へ傾斜している距離は、昭和五八年三月八日には前記のとおり一五四・九ミリメートルであつたのに対し、昭和六〇年七月一四日には一六五ミリメートルとなつている。

(2) B建物の敷地の地耐力は、被告堂野作成の設計図書上は一平方メートル当り五トンとされ、B建物の自重一平方メートル当り三・八九トン(A建物についてもほぼ同じと推測される。)を十分に支持しうるものとされていたが、右地耐力は実際のボーリング調査に基づき確認されたものではなかつた。破産会社は担当者清水において右事実を知りながら、本件各建築工事に際し改めてボーリング調査をなさず、設計図書に従い右各建物の基礎構造として地表八五センチメートルの深さにいわゆるベタ基礎を施工した。ところが、右各建物の南隣りの黒田マンションを建設する際になされたボーリング調査の結果によれば、B建物から南側に約三・六メートル離れた地点における地耐力は地下一三・四五メートルまでは一平方メートル当り〇ないし一トンにすぎない軟弱地盤であり、前記設計図書が前提とした地耐力一平方メートル当り五トンの支持層は地下二三・一五メートルの深さまで存しないことが判明した。

(3) 原告昭次は、昭和五一年五月一三日ごろB建物の北隣りの長田ハイツ建設のため地鎮祭がなされた際、その施工業者から、B建物の北側壁面に設置されたウインド型クーラーの後部が同ハイツの敷地との境界線を越境している旨指摘されたので、その取付位置を是正したが、当時は比較対照すべき建物が周囲になかつたこともあつて、A、B建物の傾斜の有無については特に意識していなかつた。

ところが、昭和五二年夏ごろB建物が完成した長田ハイツと比べ明らかに同ハイツ側に傾斜していることが判明したので、原告昭次は破産会社に対しその補修方を申入れたが、原因が明らかでないとして難色を示されたため、長田ハイツの基礎工事の際なされた素堀りが右傾斜の原因ではないかと考え、破産会社に対し同ハイツの施工業者との間でも右補修につき交渉するように申入れた。

(4) その後、原告昭次は破産会社側から同社の費用で補修を行う旨の回答を得、破産会社は昭和五三年五月ごろA、B各建物の一階土間部分を堀下げ、鉄骨柱脚をジャッキで持ち上げて薬液を注入するなどして基礎構造を補修した結果、各建物の傾斜は同年七月ごろには一旦是正された。

(5) しかるに、右補修から僅か二か月後の同年九月ごろにはA、B各建物が再び傾斜していることが判明したので、原告昭次は破産会社に対し再度その補修方を申入れ交渉を重ねた。その間破産会社は被告堂野の紹介にかかる飛高建設に補修方法と費用の見積を依頼した結果、A、B各建物の北、南両側の地耐力ある地層まで基礎杭を必要な本数打設し、傾斜の進行をほぼ確実に阻止するためには三千数百万円かかること、これに対し、傾斜側(北側)にのみ基礎杭を打設する場合には傾斜の進行を確実に阻止できる保証はないが、費用は約一四六〇万円ですむこととの回答を得たので、昭和五六年六月ごろ右を原告昭次に提示したが、費用の点を考慮して最終案としては後者の補修方法を採用し、費用約一四六〇万円に先に破産会社がなした補修費用(約六〇〇万円)を加えた上これを折半することとし、原告昭次に対し約一〇〇〇万円負担するよう申入れた。しかし、原告昭次は、各建物の傾斜の進行を阻止することが保証できないことに不安を覚えるとともに、約一〇〇〇万円もの大金を負担することに納得できず、右交渉は決裂した。

以上の事実が認められ、証人西村博の証言中右認定に反する部分はにわかに措信できず、他にこれに反する証拠はない。

右事実によれば、A、B各建物の水平面及び垂直面における各傾斜が基礎構造の不等沈下により発生したことは明らかであるが、その原因は、敷地の地耐力につき誤つた設計がなされ、これが是正されることなくいわゆるベタ基礎構造が施工されたことに起因すると推認せざるを得ず、かかる基礎構造は建物の構造耐力に関する具体的な技術基準(法二〇条一項、三六条、施行令三六条)に適合しないと解されるから、A、B各建物の基礎構造には設計、工事監理及び施工上の瑕疵があるというべきである。

被告管財人は右不等沈下の原因が長田ハイツの基礎工事にかかる素堀りに起因する旨主張するので判断するに、原告昭次がB建物の傾斜を明確に認識した時期が長田ハイツ完成後であることは前記認定のとおりであるが、それはB建物と長田ハイツとを比較して目視によつてもB建物の傾斜を認識した時期を意味するに止まり、これをもつて右傾斜の発現した時期が長田ハイツの基礎工事の施工後であると認めるに足りず、原告昭次と破産会社間でなされた右傾斜の補修を巡る交渉経過は前記認定のとおりであつて、原告らが右傾斜の原因が長田ハイツの基礎工事にかかる素堀りに起因することを自認していたとは到底いえない。却つて、B建物の自重が設計上一平方メートル当り三・八九トンとされるにも拘らず、その基礎構造は地耐力一平方メートル当り〇ないし一トンという軟弱地盤の地表下僅か八五センチメートルの深さに施工されたベタ基礎にすぎないこと(これはA建物についてもほぼ同様と推測される。)、長田ハイツ南側に隣接するB建物のみならずA建物にも傾斜が認められること、A、B各建物につき一旦補修された後僅か二か月の間に再び傾斜が始まつたこと、右傾斜は現在も進行していること、以上の事実に地耐力不足による地盤の圧密沈下は地盤の軟弱の程度や土質の差により必ずしも敷地全体にわたつて均等に生ずるとは限らないと解されることをも総合して判断すると、本件不等沈下は長田ハイツの基礎工事が施工される以前から既に発現していたことが窺われるから、右基礎工事の施工後に不等沈下が発現したことを前提とする被告管財人の前記主張は失当である。

2  耐火、防火上の欠陥について

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  A、B各建物の敷地は法第三章第五節所定の防火地域としては準防火地域に指定され(この事実は当事者間に争いがない。)、その階数がいずれも四以上であるから各建物とも耐火建築物としなければならず(法六二条一項)、従つて、主要構造部(法二条五号)である柱、梁は耐火構造(同条七号)、即ち一時間耐火被覆の施工を要する(施行令一〇七条一号、昭和三九年建設省告示第一六七五号第三)。

しかるに、B建物の天井裏の柱、梁については、被告堂野作成の建築確認申請書類添付の耐火リスト(法六条による確認、通知済)には右所定の耐火被覆の記載があるのにその施工が全くなされておらず、また同建物室内の柱についても、右耐火リストには湿式吹付ロックウールによる厚さ三センチメートルの被覆の記載があるのに、現実には鉄網モルタルによる厚さ二・二ないし二・七センチメートルの被覆が施工されているにすぎない(前記告示第三、三、ロによれば、鉄網モルタルによる被覆の場合には四センチメートル以上の厚さを要する。)。

(二)  A、B各建物は前記のとおり主要構造部を耐火構造とし、かつ三階以上の階に居室(法二条四号)を有する建築物で、住戸の階数が二以上であるから、右住戸の部分、階段の部分とその他の部分とは耐火構造の床、壁、防火戸で区画しなければならない(法三六条、施行令一一二条九項)。

しかるに、A建物においては階段部分が一部木造であつて防火戸も施工されておらず、B建物においても前記耐火リストには乙種防火戸(施行令一〇九条一項二号、一一〇条二項)の記載があるのに、現実には施工されておらず、二階ないし四階の各出入口は全て木製である。

(三)  A、B各建物は法別表第一、(二)、(い)欄所定の共同住宅の用途に供する特殊建築物であるから、施行令一二六条の五、昭和四五年建設省告示第一八三〇号所定の構造を有する非常照明を廊下、階段等照明装置の設置を通常要する部分に設けなければならない(施行令一二六条の四)。

しかるに、B建物においては、前記耐火リストには右基準に沿う非常用照明の記載があるのに、現実には施工されておらず、通常の蛍光灯(二〇ワット)が施工されているに止まる。

(四)  A、B各建物は、その構造(鉄骨造)、階数(四階建)、床面積、用途においていずれも同規模の建物であつて、前記認定のとおり、同一敷地上に外形上一棟の建物のように接続した内外装がなされており、建築確認申請(法六条)に際してなされる適合性の判断対象となる法的規制についてもほぼ同じである。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、A、B各建物においては耐火ないし防火上の諸設備につき設計図書(耐火リスト)に記載されたとおりの施工がなされておらず(A建物についてもB建物と同様の耐火リストが作成されたものと推測される。)、耐火、防火上の安全性に関する建築基準法令所定の具体的な技術水備が充たされていないことは明らかであるから、その耐火ないし防火構造には工事監理及び施工上の瑕疵があるというべきである。

被告管財人は、A、B各建物が設計図書に記載のとおり施工されなかつたのは、予算の関係上原告らと破産会社との間で合意の上なされたもので、原告らは各建物完成後、右事実を認めた上で円満にその引渡を受けた旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

三破産会社、被告堂野及び同日産設計の責任

1  破産会社

原告らは主位的に債務不履行(不完全履行)責任を主張するが、請負人の瑕疵担保責任に関する規定(民法六三四条以下)は瑕疵を生じた理由のいかんを問わず、瑕疵の種類や程度に応じて適当な要件と効果を定めたものであるから、これらの規定により不完全履行の一般理論は排斥されると解すべきである。

そして、前記認定のとおり、破産会社はA建物につき昭和五〇年六月ごろ、B建物につき同年一二月一五日ごろ各建築請負工事を完了し、そのころ各建物を引渡したが、右請負契約に基づく右各建物の設計、施工及び工事監理に関して前記の瑕疵が認められるのであるから、破産会社は本件瑕疵により生じた損害を賠償する責任がある。

2  被告堂野及び同日産設計

A、B各建物の基礎構造の設計図書において敷地の地耐力が一平方メートル当り五トンとされていること、右各建物の建築確認申請書の工事監理者資格欄が右被告らの名義となつていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 破産会社は建築物の設計、施工、工事監理等を業とする会社であるが、建築士事務所の登録(建築士法二三条)を受けておらず、建築確認申請手続等の代理業務を行うことができないため、昭和四〇年ごろから自ら請負つた建物建築工事の確認申請手続等の代理業務(申請書添付の設計図書の作成を含む。)を専属的に被告日産設計に依頼していた。

(二) 被告堂野は、同日産設計の代表取締役で、一級建築士事務所(建築士法二三条)の業務管理をなすいわゆる管理建築士(同法二四条)であるが、昭和五〇年六月ごろ破産会社の依頼によりB建物につき建築申請手続の代理業務を行つた際、同社担当者清水から、予算の都合上ボーリング調査は実施できないが建築確認が下りるように申請書添付の設計図書を作成するように求められた。そこで、被告堂野は大阪市建築指導課構造強度係にB建物敷地付近の地耐力を照会したところ、一平方メートル当り五トンと見積れば市の構造審査基準に適合するとの回答を得たので、実際に現地の地質調査をしないままこれに従い、基礎構造を深さ八五センチメートルのいわゆるベタ基礎構造とした設計を行い、その設計図書を添付して建築確認申請をして、同年七月九日付で建築確認通知を受けた。

(三) 被告堂野は右代理業務をなすに際し、破産会社担当者から、委任者を原告昭次、受任者を被告堂野(これは被告日産設計の代表者としての意味を有すると解される。)、委任事項を建築基準法令等に適合する建築確認申請手続並びに右手続を了した関係書類の受領とする旨の委任状の交付を受け、確認申請書記載の代理者設計者及び工事監理者の各資格氏名欄に被告堂野の、同じく各建築事務所欄には被告日産設計の各記名をなした上押印した。

(四) A建物についても昭和四九年一一月末ごろB建物と同じようにして建築確認申請がなされ、そのころ確認通知がなされた。

(五) 被告堂野は、右代理業務に関して破産会社から設計図面作成費及び確認申請手数料としてA建物につき二一万円の、B建物につき三〇万円の各報酬を受けた。

(六) A、B各建物は建築士法三条の二第二項一号、二号に該当する建築物であるから、一級又は二級建築士の資格を有する工事監理者を定めなければその工事をすることができないが(法五条の二第二項、三項)、一般に、建築確認申請時にこれが未定のときには後に定つてから工事に着工するまでに建築主事に届出れば足りる取扱いであるところ、大阪市では右申請時に工事監理者を定めるよう指導していた。

被告堂野は、前記のとおり、確認申請書には工事監理者としてその氏名が記されていたが、実際は工事監理者にはなつておらず、破産会社も実際の工事監理者をおかなかつた。

(七) 破産会社は、その後も現地について地質調査をすることなく、被告堂野が作成した右設計図書にもとづいて、A、B各建物の建築工事を完成した。

以上の事実が認められ、被告堂野本人尋問の結果中右認定にそわない部分は採用することができない。

右事実によれば、被告日産設計が破産会社からA、B各建物の建築確認申請手続及びこれに伴う設計図書の作成の委任を受けたことは明らかであるが、建築確認申請書の工事監理者資格欄に被告日産設計、同堂野の記名押印があるのは、大阪市の指導に従い建築確認を得るため便宜上右被告らの名義を用いたにすぎないことが窺われるのであつて、右被告らが工事監理を引受けたものではないということができる。そうすると、被告日産設計の管理建築士である被告堂野が原告らに対し、A、B各建物の工事監理についてその責任を負うべきいわれはないというべきである。

しかしながら、右認定事実及び前認定事実に徴すると、次のとおり指摘することができる。すなわち、被告堂野は実際の地質調査をすることなく、地耐力が一平方メートル当り五トンあるものとして本件の設計を行い、破産会社もまた実際の地質調査を実施することなく、右の設計図書に基づいて本件工事を施工したが、実際には設計図書どおりの地耐力がなく、そのため不等沈下を生じさせ、原告らに損害を生じさせたのである。ところで、被告堂野の当面の任務は建築確認を得るところであり、また、右の設計図書は直接には建築確認を得るために作成されたものと認めることができるが、破産会社と被告日産設計さらには被告堂野の従前からの関係、本件の経緯等からすると、右の設計は建築確認を得るためのものにとどまらず、実際の工事施工のためのものでもあつたと認めるのが相当である。そして、被告堂野は、一級建築士として、設計図書を作成するに当つてはこれを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合させなければならない(建築士法二条五項、一八条二項)ところ、右各建物の基礎構造を設計するに際し敷地の地盤調査を怠り誤つた地耐力を設定して、前記認定のとおり基礎構造の不等沈下を生じさせたのである。従つて、被告堂野は少なくとも過失により原告らの財産権を侵害したことになるから民法七〇九条に基づき、被告日産設計は代表者である被告堂野がその職務を行うにつきなした右不法行為につき法人として民法四四条に基づき、各自右設計上の瑕疵により原告らが被つた損害を賠償する責任がある。被告堂野は、同日産設計は、本件基礎構造を設計するに際し前提とした敷地の地耐力は予備調査の結果としての大阪市担当官の指導に従つたものであるし、破産会社からは、本調査については設計図書の作成とは無関係に同社の責任でこれを実施し基礎構造の適正化を図るとの申入れがなされていたから、本件設計上の瑕疵につき責任がない旨主張する。しかしながら、いわゆる予備調査とは、付近の建物の基礎設計条件や地勢等を調べその敷地内の地層の概況、強さ等を推定して基礎構造の計画を立て、それに適した本調査の方法を定めるためのものにすぎない(前示甲第一号証六九頁参照)から、本件地耐力の設定が予備調査にかかる大阪市担当官の指導に従つたにせよ、本調査を欠く以上これに基づく基礎構造の設計が法令(法二〇条、三六条、同法施行令三六条、三八条、九三条)に適合しないことは明らかである。また、地質調査に関する破産会社の申入れについては、被告堂野本人は、破産会社からそのような申入れを受けた旨供述するが、かりにそのような申入れがあつたとしても、もともと予算の制約で設計前の地質調査ができなかつたという前記の経緯からすると、特段の事情のないかぎりその後に地質調査がされうるという可能性は乏しいと考えられるし、現に破産会社は地質調査をしていないのであるから、被告堂野がその申入れを信じたとすれば、専門家として軽卒であつたといわざるをえないのである。それゆえ、右被告らの主張は採用することができない。

四原告らの損害

1  瑕疵の補修方法について

A、B各建物には前記のとおり、基礎構造につき設計、施工及び工事監理上の、鉄骨構造体の部材熔接、鉄骨軸組架構体の組方(B建物のみ)及び防火、耐火構造につき施工及び工事監理上の各瑕疵が存するところ、以下各建物の瑕疵の補修方法について検討する。

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(一) 建物の瑕疵の補修方法としては、建物を一旦解体、除去の上再築する方法と、建物の瑕疵ある部分のみを除去し修復する方法とが考えられるが、そのいずれを採用するかは、工費の多寡、工期の長短、実施可能性、近隣、道路事情、美匠上の問題等の諸事情を総合して決すべきである。

(二) 甲第一号証(以下「森田意見」という。)においては、A建物の基礎構造の補修方法として、在来の基礎下に場所打コンクリート杭を打設して在来の基礎と接続した上、上部躯体を建起して修復する方法(以下「部分修復法」という。)が採用されている。しかし、その具体的な杭の打設方法であるB・H工法(高圧力の水により杭穴を掘削する方法)は、近隣、道路事情から生コン車の待機、ポンプ車の設置が困難であるし、場所打杭を施工するためにB建物敷地を使用する必要性や泥水を多量に使用するために生じる近隣への防火対策等を考慮すると、その施工上の難点が少なくない。

(三) また、森田意見では杭打設終了後右杭に建物荷重を負荷させる具体的方法が示されておらず、この点甲第一六号証(以下「鳥巣意見」という。)においては、その方法として右打設杭に荷重を伝える新しい梁に旧基礎を載せる架構方法が挙げられるが、その施工については、土工事に際し重機の使用が殆んど不可能であり工費がかさむこと、近隣の太田歯科ないし黒田マンションとの間隔が狭く室内からの作業しかできないため近隣に対する地盤沈下防止等の防災対策が困難であること、水平、垂直面の建起しに伴い筋違、ブレース等の取外しを要し、壁、床、天井等の一部を除去しなければならないこと、一斉作業が困難なため工期が比較的長期にわたること、入居のままの施工は不可能で仮移転の配慮が必要であること等の問題点が指摘されている。

(四) 他方、鳥巣意見においては、A建物の基礎構造の補修方法として、建物を解体、除去して再利用できる鉄骨等の資材のうち経済的に有利なものを利用し、不利なものは廃棄して再築する方法(以下「再築法」という。)が採用されている。再築法は、森田意見の部分修復法に対して先に指摘された問題点に鑑みると施工上の難点が少ない反面、その工費はA建物につき部分修復法による場合が二一九二万円(鳥巣意見による修正後の額)であるのに対し、三〇四二万一四四八円とかなり高額となる難点がある。

(五) もつとも、鳥巣意見で新たに指摘された鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵の補修には、不良熔接部分の除去に伴う高騒音の発生、高技能を有する職工の現場派遣の困難性、精度の確保や検査の方法等施工上の問題点が山積するところ、再築法によれば不良熔接部分を工場で保管する間に修復でき右の問題点は解消される。また、B建物についての鉄骨軸組架構体組方の瑕疵の補修も、建物を存続させたまま現場で施工することは極めて困難であるのに対し、再築法によれば容易に施工できる。

以上の事実が認められ、証人鳥巣次郎の証言中右認定に反する部分は採用しない。

右事実によれば、A、B各建物の基礎構造の瑕疵に限つて考えた場合は、森田意見の部分修復法には鳥巣意見に指摘されるとおり現実に施工する際に少なからぬ困難が伴うものの、施工が不可能であるとまではいえず、反面鳥巣意見の再築法の工費が森田意見の部分修復法よりもA建物につき約一〇〇〇万円も高額となる点に鑑みると、再築法はにわかに採用し難く、部分修復法が相当である。しかしながら、基礎構造の瑕疵に加えて鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵、B建物についての鉄骨軸組架構体組方の瑕疵さらには耐火、防火構造の瑕疵の各補修をも総合的に考慮すると、瑕疵ある部分のみの除去、修復は理論上は不可能ではないにせよ、現実に施工することは極めて困難となり、工費の低廉性をもつてしても最早部分修復法の合理性を担保しえないというべきであるから、補修方法としては再築法を採用するのが相当である。

2  原告ゼニヤ

(一)  補修費用相当損害金

(1) A建物には前記認定のとおり、基礎構造、鉄骨構造体の部材熔接及び防火、耐火構造の各瑕疵があり、これらを除去するためには前記再築法が相当である。

しかして、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、その費用は建物解体費、廃棄材処分費が二五四万四四〇〇円、設計図書作成費、工事監理費が二二四万八八九五円(以上いずれもA、B両建物につき合算して算定されたものを床面積の割合で按分したものである。)、再築費が三〇四二万一四四八円、以上合計三五二一万四七四三円であることが認められる。原告ゼニヤはこのうち基礎杭打設方法による基礎工費と現状施工のベタ基礎打設工費との差額一七三万二六八五円を損益相殺する旨主張するところ、右計算根拠は明らかでないものの、被告らにおいて右の点につき明らかに争わないと認められるから、右差額を控除した三三四八万二〇五八円がA建物の補修費用相当損害金となる。そして、原告ゼニヤは内金二五〇〇万円を請求しているので、本訴では二五〇〇万円の限度でこれを認める。

(2) 前記認定のとおり、A建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵に限つて考えた場合には、その補修方法として森田意見の部分修復法を採用するのが相当であるから、右方法により、算定される費用が、設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害となる。

しかして、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、その費用は森田意見による評価額一五四一万三八六八円に鳥巣意見による不足分の評価額六五〇万六二五〇円を加えた二一九二万〇一一八円から、鉄骨構造体の部材熔接の瑕疵の補修費相当額二一〇万円及び防火、耐火構造の瑕疵の補修費相当額二三八万五八〇〇円を控除した一七四三万四三一八円であることが認められ、これがA建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵のみの補修費相当損害金即ち設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害ということになる。

(二)  A建物補修工事期間中の代替建物賃料

(1) 〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、原告ゼニヤはA建物の補修工事の期間中代替建物で営業せざるを得ないこと、補修工期は八か月間であるが、そのうち解体工事に要する期間は五か月間であること、原告昭次は昭和五二年一月A建物に隣接するB建物の階上居部分(約二四坪)を賃料一か月五万五〇〇〇円で他に賃貸していたこと、以上の事実が認められ、右事実に弁論の全趣旨によれば、代替賃料は一か月、一平方メートル当り六九四円二六銭の割合となるから、A建物については、一か月一七万六六四七円(円未満切捨)、解体工期五か月間では八八万三二三七円が相当であるところ、原告ゼニヤは内金八四万三五二〇円を請求しているので、本訴では八四万三五二〇円の限度でこれを認める。

(2) 前記認定のとおり、A建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵に限つて考えた場合には、その補修方法として森田意見の部分修復法を採用するのが相当である。

しかして、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、森田意見の部分修復法による場合でも、鳥巣意見に指摘のとおり、打設杭に荷重を伝える新しい梁に旧基礎を載せる架構方法の施工に際し、仮移転の配慮が必要であることが認められるところ、右期間としては、杭打工事に要する期間一か月間が相当である。そうすると、A建物の代替建物賃料は前記認定のとおり一か月一七万六六四七円であるから、これが、A建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵のみの補修工事期間中の代替建物賃料即ち設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害ということになる。

(三)  引越費用

〈証拠〉によれば、原告ゼニヤはA建物補修工事の前後二回にわたり代替建物との間で引越をしなければならず、その費用は一回当り一五万円合計三〇万円であることが認められる。

(四)  鑑定調査費用

〈証拠〉によれば、原告らは本件瑕疵を技術的に正確に把握し被告らに対し相当な請求をするため、建築専門家による鑑定、調査を必要としたことから、一級建築士森田泰次、同鳥巣次郎に対してA、B各建物の瑕疵とその補修方法、費用等について鑑定を依頼し、鑑定料として合計一七九万六〇〇〇円を支出したことが認められる。そして、前記認定のような本件瑕疵の内容、程度、その判定の困難性に鑑みると、右支出のうち八九万八〇〇〇円がA建物における本件瑕疵と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

(五)  慰謝料

〈証拠〉によれば、原告ゼニヤの代表者同昭次は、A建物の本件瑕疵の判明により大きな打撃を受け、破産会社との補修交渉などにより多大の精神的労苦を受けたことが認められる。そして、右瑕疵の内容、程度、契約及び補修工事の経緯等一切の事情を総合し、原告ゼニヤに生じた算定困難な損害をも含めて考えると、その額は八〇万円と認めるのが相当である。

(六)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告ゼニヤは本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、相当額の費用、報酬の支払を約したことが認められる。

ところで、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求において弁護士費用の賠償を認めうるか否かは一つの問題であるが、本件瑕疵の内容、程度、態様は前記認定のとおり鉄骨造の建築物として基礎的かつ重大なものであることや、瑕疵の発生原因に加えて契約成立の経緯に補修交渉の経緯等の事情に照らせば、破産会社の負う瑕疵担保責任の内実は反社会性ないし反倫理性の程度において不法行為責任に匹敵すべき違法性を有するといわざるを得ないから、結局この問題を積極的に解すべきである。

そして、前記認定のとおり、破産会社は原告ゼニヤに対し瑕疵担保責任として二七八四万一五二〇円の、被告堂野、同日産設計は原告ゼニヤに対し不法行為責任として各自一九六〇万八九六五円の損害賠償債務を負担するところ、本件事案の内容、損害額その他一切の事情を考慮すると、被告らが負うべき相当因果関係にある原告ゼニヤの弁護士費用は、破産会社につき二七八万四〇〇〇円、被告堂野、同日産設計につき各自一九六万円とするのが相当である。

3  原告昭次、同ヒサ

(一)  補修費用相当損害金

(1) B建物には前記認定のとおり、基礎構造、鉄骨構造体の部材熔接、鉄骨軸組架構体の組方及び防火、耐火構造の各瑕疵があり、これらを除去するためには前記再築法が相当である。

しかして、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると、その費用は建物解体費、廃棄材処分費が三一一万二六〇〇円、設計図書作成費、工事監理費が二七五万一一〇四円(いずれもA、B両建物につき合算して算定されたものを床面積の割合で按分したものである。)、再築費が三五八七万四三二一円、以上合計四一七三万八〇二五円であることが認められる。原告昭次、同ヒサはこのうち基礎杭打設方法による基礎工費と現状施工のベタ基礎杭打設工費との差額二一一万九六一八円を損益相殺する旨主張するところ、右計算根拠は明らかでないものの、被告らにおいて右の点につき明らかに争わないと認められるから、右差額を控除した三九六一万八四〇七円がB建物の補修費用相当損害金となる。そして、右原告らはB建物を区分所有しているので、両名の専有部分の床面積で右金額を按分すると、原告昭次分が一九五七万〇七八九円、同ヒサが二〇〇四万七六一七円(いずれも円未満切捨)となる。

(2) 前記認定のとおり、B建物の瑕疵のうち、基礎構造の瑕疵に限つて考えた場合には、その補修方法として森田意見の部分修復法を採用するのが相当であるから、右方法により算定される費用が設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害となる。もつとも、右意見ではB建物については再築法を採用しているので、B建物についてA建物と同様部分修復法により補修をなした場合の費用についてはA建物についての補修工費の金額から推測せざるを得ない。しかして、前記認定のとおり、A、B各建物がその構造(鉄骨造)、階数(四階建)、床面積、用途においていずれも同規模の建物であつて、同一人の設計により相前後して建築されたことからすれば、B建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵のみの補修費相当損害金は、A建物についての前記認定額一七四三万四三一八円を基礎として、床面積の割合で算定される二一三二万七六四四円(円未満切捨)と解するのが相当である。そして、原告昭次、同ヒサはB建物を区分所有しているので、両名の専有部分の床面積で右金額を按分すると、原告昭次分が一〇五三万五四七七円、同ヒサが一〇七九万二一六六円(いずれも円未満切捨)となり、これがB建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵のみの補修費相当損害金即ち設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害ということになる。

(二)  B建物補修期間中の代替建物賃料

(1) 〈証拠〉によれば、原告昭次、同ヒサはB建物の補修工事の期間中代替建物を賃借せざるを得ないことが認められるところ、前記認定のとおり、代替建物賃料は一か月一平方メートル当り六九四円二六銭の割合とし、解体工期は五か月間とするのが相当である。そして、右数値に基づきB建物における原告昭次、同ヒサの専有部分の床面積に応じて代替建物賃料を算定すると、原告昭次分が四五万五九二〇円、同ヒサ分が四六万七〇二八円(いずれも円未満切捨)となる。

(2) 前記認定のとおり、B建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵に限つて考えた場合には、その補修方法として森田意見の部分修復法を採用するのが相当である。

しかして、前記認定のとおり、部分修復法による場合であつても仮移転の配慮を要するところ、右代替建物賃料は一か月一平方メートル当り六九四円二六銭の割合とし、右期間は杭打工期一か月間とするのが相当である。そして、右数値に基づきB建物における原告昭次、同ヒサの専有部分の床面積に応じて代替建物賃料を算定すると、原告昭次分が九万一一八四円、同ヒサが九万三四〇五円(いずれも円未満切捨)となり、これがB建物の瑕疵のうち基礎構造の瑕疵のみの補修工事期間中の代替建物賃料即ち設計上の瑕疵と相当因果関係のある損害ということになる。

(三)  引越費用

〈証拠〉によれば、原告昭次、同ヒサはB建物補修工事の前後二回にわたり代替建物との間で引越をせねばならず、その費用は一回当り一五万円、合計三〇万円であることが認められる。そして、右原告らはB建物を区分所有しているので、両名の専有部分の床面積で右金額を按分すると、原告昭次分が一四万八一九四円、同ヒサ分が一五万一八〇五円(いずれも円未満切捨)となるところ、同ヒサの請求額は一五万一八〇〇円であるから一五万一八〇〇円の限度でこれを認める。

(四)  鑑定、調査費用

前記認定のとおり、原告らは本件瑕疵を技術的に正確に把握し被告らに対し相当な請求をするため、建築専門家による鑑定、調査を必要としたことから、一級建築士森田泰次、同鳥巣次郎に対してA、B各建物の瑕疵とその補修方法、費用等について鑑定を依頼し、鑑定料として合計一七九万六〇〇〇円を支出した。そして、前記認定のような本件瑕疵の内容、程度、その判定の困難性に鑑みると、右支出のうち八九万八〇〇〇円がB建物における本件瑕疵と相当因果関係にある損害と認めるのが相当であるところ、原告昭次、同ヒサは右建物を区分所有しているので、両名の専有部分の床面積で右金額を按分すると、原告昭次分が四四万三五九六円、同ヒサが四五万四四〇三円(いずれも円未満切捨)となる。

(五)  慰謝料

〈証拠〉によれば、原告昭次、同ヒサともに念願のB建物を新築したものの本件瑕疵に悩まされ、特にB建物が傾斜して北隣の長田ハイツにもたれかかつていることに対する近隣への配慮や破産会社との補修交渉により受けた精神的労苦は多大であることが認められる。そして、右瑕疵の内容、程度、契約及び補修工事の経緯等一切の事情を総合し、右原告らに生じた算定困難な損害をも含めて考えると、その額は原告昭次につき八〇万円、同ヒサにつき二〇万円とするのが相当である。

(六)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告昭次、同ヒサは本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、相当額の費用、報酬の支払を約したことが認められる。そして、前記判示のとおり、本件では瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求においても弁護士費用の賠償を認めうると解すべきである。

しかして、前記認定のとおり、破産会社は瑕疵担保責任として、原告昭次に対し二一四一万八四九九円、同ヒサに対し二一三二万〇八四八円の、被告堂野、同日産設計は不法行為責任として各自、原告昭次に対し一二〇一万八四五一円、同ヒサに対し一一六九万一七七四円の損害賠償債務を負担するところ、本件事案の内容、損害額その他一切の事情を考慮すると、被告らが負うべき相当因果関係にある原告昭次の弁護士費用は破産会社につき二一四万一〇〇〇円、被告堂野、同日産設計につき各自一二〇万一〇〇〇円、同じく原告ヒサの弁護士費は破産会社につき二一三万二〇〇〇円、被告堂野、同日産設計につき各自一一六万九〇〇〇円とするのが相当である。

五破産会社に対し、神戸地方裁判所尼崎支部昭和六〇年(フ)第一二三号破産申立事件に基づき同年一二月一二日破産宣告がなされ、同日仁藤一が破産管財人に選任されたことは本件訴訟記録上明らかであり、弁論の全趣旨によれば、原告らが破産会社に対し、昭和六一年四月一七日請求原因第六項記載の損害賠償請求元本債権及び遅延損害金債権をそれぞれ破産債権として届出たところ、被告管財人は同年六月九日債権特別調査期日において右各届出債権全額について異議を述べたことが認められる。

六結論

以上によれば、別表(一)、(二)に記載のとおり原告らは破産会社に対し請負契約の瑕疵担保責任に基づく損害賠償元金(原告ゼニヤにつき三〇六二万五五二〇円、原告昭次につき二三五五万九四九九円、原告ヒサにつき二三四五万二八四八円)及びこれに対する弁済期の後である昭和五八年四月二三日から破産会社の破産宣告決定の日の前日である昭和六〇年一二月一一日まで、原告ゼニヤについては商事法定利率年六分の割合による、原告昭次、同ヒサについては民法所定の年五分の割合による各遅延損害金(原告ゼニヤにつき四八五万三〇九六円、原告昭次につき三一一万一一四四円、原告ヒサにつき三〇九万七〇六一円)の各破産債権を有することが認められ、原告らは被告日産設計に対し法人としての責任に基づき、被告堂野に対し不法行為に基づき損害賠償請求権(原告ゼニヤにつき二一五六万八九六五円、原告昭次につき一三二一万九四五一円、原告ヒサにつき一二八六万〇七七四円)及びこれに対する弁済期の後である昭和五八年四月二八日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金請求権を有するということができる。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川口冨男 裁判官筏津順子 裁判官松田 享)

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